日本針路研究所

ソ連邦崩壊20年シンポジウム

2011年11月6日(日) 10:00〜17:30   明治大学リバティタワー12階1063教室
主催:社会主義理論学会 協賛:日本針路研究所 独占研究会
参加費 1000円
●自主企画 午前10時から午後1時
1 社会主義像の探究
報告1:社会主義の歴史と残された可能性 森岡真史(立命館大学教授)
報告2:社会主義の政治体制は清廉な官僚制 村岡 到(『プランB』編集長)
司会:藤岡 惇(立命館大学教授)
(責任:NPO法人日本針路研究所)
2 20年後のソ連東欧
報告1:ロシア企業の体制転換 加藤志津子(明治大学教授)
報告2:自主管理社会主義の教訓 岩田昌征(千葉大学名誉教授)
司会:佐藤和之(高校教師)
(責任:社会主義理論学会)
3 ソ連崩壊後のアメリカとキューバ
報告1:アメリカ建国の理念にみる市民の共同体 瀬戸岡紘(駒澤大学教授)
報告2:キューバのめざす社会主義 鶴田満彦(中央大学名誉教授)
司会:長島誠一(東京経済大学教授)
(責任:独占研究会)
●全体会 午後2時から5時30分
講演:ソ連はどうして解体/崩壊したか 塩川伸明(東京大学教授)
司会:西川伸一(明治大学教授/学会共同代表)

呼びかけ
 1991年のソ連邦の崩壊から今年で20年となります。20年といえば、人間ならば成人式を迎えます。当たり前のことですが世の中は大きく変化しました。
 まず、日本の政治をみれば、1993年の細川連立政権の誕生によって、自民党長期単独政権は幕を下ろしました。その後自民党は連立を組むことで政権に復帰しましたが、2009年総選挙で民主党が圧勝して単独政権を打ち立てます。しかし、2010年参院選で民主党は過半数を失い、困難な政権運営を強いられています。
 そこに襲いかかったのが「3・11」です。これは、日本の政治・経済・社会・文化のすべてに対して「ストレス・テスト」を課しているといえます。文明災とさえいわれる福島第一原発事故は、エネルギーをめぐる人類共通の課題を私たちに突きつけています。
 一方、世界に目を転じれば、その激動ぶりは容易には言い尽くせません。ソ連という「敵」がいなくなり、新自由主義的グローバリズムは猛威をふるうようになりました。「9・11」はその総本山へのあまりにも過激な異議申し立てでした。それ以降、アメリカ入国の際には手の指10本すべての指紋が採られ、街中至るところに星条旗があふれています。「9・11」は世界のありようを根本的に変えてしまいました。
 たまたま10年刻みのソ連邦崩壊、「9・11」、そして「3・11」。これらのハードルを経たいまの時点から20世紀社会主義を改めてとらえ返し、この激変する世界の流れを読み解くためにも、ぜひこのシンポジウムに参加されませんか。

「歴史〔研究〕の目的は、過去の『事実』の発掘にあるのではなく、時代が提起する『問題』の解明にある、あるいは『過去の事実の記憶』にあるのではなく、『現在の問題の解決』にあります」(渓内謙『現代史を学ぶ』)。

1 社会主義像の探究
報告1:社会主義の歴史と残された可能性
森岡真史(立命館大学教授)

 労働義務と生存権という二つの社会主義的規範のうち、前者は、財産所有による「不労所得」の廃棄をめざす点で、自身のうちに資本主義の否定を含んでいる。20世紀社会主義体制は、労働義務の普遍化を広範な強制労働を伴って実現したが、この体制の否定的特質はまさにこの点に根源をもつ。社会主義の残された可能性は、生存権の思想の再確認と豊富化に見出すべきであり、そのためには、従来の資本主義批判の再考が必要である。
参考文献:森岡「社会主義の過去と未来──価値・闘争・規範」『季刊経済理論』第48巻1号、2011年。


報告2:社会主義の政治体制は清廉な官僚制
村岡 到(『プランB』編集長)

 私は、社会主義経済については〈協議経済〉として明らかにしてきたが、今回は社会主義の政治について提起する。「プロレタリア独裁」は根本的錯誤であり、〈民主政〉の実現が課題であるが、同時に官僚制も不可避に必要であり、それは〈清廉な官僚制〉として実現しなくてはならない。マルクス踏襲ではなく、ウェーバーの官僚制論を活かすことがカギである。
参考文献:村岡「ウェーバーの『官僚制』論を超える」『プランB』第30号=2010年12月、ロゴス。
村岡『生存権所得』社会評論社、2009年。

2 20年後のソ連東欧
報告1:ロシア企業の体制転換
加藤志津子(明治大学教授)

 ソ連崩壊後の20年間にロシア企業は、「ソ連型社会主義企業」から「市場経済下の企業」へと体制転換を遂げた。しかしロシア企業が、資本主義企業の原型に近いものになったわけではない。本報告では、20年間のソ連・ロシア企業の体制転換の過程を概括的に示すとともに、ソ連社会主義の理念の出発点であった労働および労働者の地位はどのような変化をこうむったのかを跡付けることにより、ロシア企業の体制転換の意義を考えたい。
参考文献:加藤「ロシア企業の体制転換」『ロシア・ユーラシア経済』2009年11-12月号)。


報告2:自主管理社会主義の教訓
岩田昌征(千葉大学名誉教授)

過剰協議経済化志向の無理/合理的官僚制建設志向の欠如
企業の労働者自主管理と市場──インフレの役割
長期持続的民族問題/欧米的要因
階級形成闘争と内戦の必要性
体制崩壊後の自主管理評価─ブランコ・ホルヴァットと ミーラ・マルコヴィチ(ミロシェヴィチ大統領夫人)
資本主義化の諸相と旧所有者への返還/三種節合経済
参考文献:岩田『社会主義崩壊から多民族戦争へ』2003年、御茶の水書房/岩田『20世紀崩壊とユーゴスラヴィア戦争』2010年、御茶の水書房。

3 ソ連崩壊後のアメリカとキューバ
報告1:アメリカ建国の理念にみる市民の共同体
瀬戸岡紘(駒澤大学教授)

 アメリカ建国の理念は自立した個人のゆるやかな共同体を理想としたものだった。初期社会主義と同根の思想で、ソ連が失敗した理由を考えるヒントがかくされている。社会主義は、市場を深く経験し、市場や資本の廃止を強くのぞむ市民がいないと実現不可能。自立した個人が形成され、市場や資本によって、個々人が傷つけられる経験をへて、カネでうごくような者がほぼ消滅していなければならない。ソ連は、自立した市民形成という初歩的課題さえ達せられない段階で、社会主義者が権力だけ掌握。そこにソ連崩壊の可能性がはらまれていた。


報告2:キューバのめざす社会主義
鶴田満彦(中央大学名誉教授)

 今年は、ソ連邦崩壊20年であるが、キューバ革命の社会主義的性格宣言50年でもある。モンカダ兵営襲撃後のカストロ派「7・26運動」の綱領的文書には、「社会正義」は掲げられていたが、「社会主義」はなかった。1959年革命勝利後、2年4か月後に革命の社会主義的性格が宣言されたのはなぜか? ソ連邦崩壊は、キューバに大打撃を与えたが、本年4月のキューバ共産党第6回大会は、「経済・社会政策路線に関する決議」を採択し、社会主義をめざす新たな道を進もうとしている。それは何か?
参考文献:L・コルトマン『カストロ』大月書店。

全体会:講演会
講演:ソ連はどうして解体/崩壊したか
塩川伸明(東京大学教授)

 かつて支配的だった「大きな物語り」に代わって、別種の「大きな物語り」が広まっている。1「社会主義の必然的崩壊」、2「冷戦における敗北」、3「計画経済の破産」、4「自由への希求の勝利」、5「解放を求める諸民族による帝国の打倒」等である。これらの命題の正反対を説こうとするのは不毛だが、あまりにも巨視的な議論は現実の歴史の説明としては不十分である。上記の4と5に例をとって考えたい。
 先ず4について。民衆運動が高揚したのはソ連解体後ではなく、ソ連末期の「上からの改革」期のことだった。その高揚局面はやがて疲労とアパシーへと道を譲った。ソ連解体は大衆運動の産物ではない。
 次に5について。独立運動が強かったのは一部の地域だけであり、遅い時期まで完全解体論は多数派ではなかった。では、何が解体という帰結をもたらしたのか。
参考文献 塩川伸明『冷戦終焉20年』勁草書房、2010年。
同『民族浄化・人道的介入・新しい冷戦』有志舎、2011年。

報告

 11月6日、明治大学リバティタワーで、社会主義理論学会主催の「ソ連邦崩壊20年シンポジウム」が開催された。午前中に三つの自主企画と午後から全体会・講演会で構成され、全体の参加者は87人。協賛団体としてNPO法人日本針路研究所と独占研究会が協力した。11月7日は──ピンと来る人はほとんどいなくなったが、1917年のロシア革命の記念日。集会は小さな規模で、時代の変化を痛感するが、全体として内容の濃いシンポジウムとなった。

●全体会
講演:ソ連はどうして解体/崩壊したか 塩川伸明(東京大学教授)
司会:西川伸一(明治大学教授/学会共同代表)
 塩川氏は最初に、この学会での講演を引き受けたが会員ではないのでと断り、理論家と歴史家との違いについて説明したうえで、歴史家としての話になると前置きした。豊富な知識に裏打ちされた講演で、ソ連邦の崩壊・解体について、何かの教条や事実に一元化して原因を見つけたつもりになる単純な歴史理解──「必然論史観」が大きな誤りであることを明確にした。
 塩川講演については、アンケートでも、「抑制の利いた冷静な観察で貴重な示唆を頂きました」、「ソ連解体の歴史過程の複雑さがよくわかった」、「講演だけでなく、質疑討論が充実していて、全体像にアプローチする上で、とてもよかった」、「歴史家の立場というスタンスでの講演、わかりやすくとても興味深く聴きました」、「塩川先生の言う『大きな物語』によってソ連解体を理解していたので、先生のていねいなお話で、認識があらたまりました」、「質疑も含めて、きめ細かい事実分析と理論とのかかわりが興味深くきくことができた」と極めて好評だった。参加者は83人。

●自主企画
1 社会主義像の探究
 報告は、森岡真史氏(立命館大学教授)が「社会主義の歴史と残された可能性」を、村岡到氏(『プランB』編集長)が「社会主義と官僚制」を。司会は藤岡惇氏(立命館大学教授)。参加者33人(責任:NPO法人日本針路研究所)。
 森岡氏は、ユートピア社会主義思想まで射程を拡げて、社会主義思想には生存権を重視する考えと労働義務を重視する考えとが流れていて、ソ連邦で試みたような私的所有の廃絶ではなく、生存権を重視する市場を活かした社会主義が求められているとして、利潤追求への批判を軸とする資本主義批判には限界があると説いた。
 村岡は、従来のマルクス主義では法学的考察を欠如させ、「ブルジョアジー独裁」批判を強調し、「官僚(制)=悪、打倒」という単純な理解だったが、そこを根本から改めて官僚制の必然性を理解した上で、〈清廉な官僚制〉を創造することが課題だと主張した。
2 20年後のソ連東欧
 報告は、加藤志津子氏(明治大学教授)が「ロシア企業の体制転換──20年の道程」を、岩田昌征氏(千葉大学名誉教授)が「自主管理社会主義の教訓」を。司会は佐藤和之氏(高校教師)。参加者は30人(責任:社会主義理論学会)。
 加藤報告では、ロシア企業の体制転換がゴルバチョフ改革期、エリツィン政権下、プーチン政権下、そしてメドヴェージェフ政権下に分けて考察され、同時に労働者の地位の変化も明らかにされた。そして、企業は徐々に国家の統制化におかれ、労働者は変化を消極的に受容してきたが、経済構造の多様化やディーセントワークのために「現代化」が必要だと結論づけた。
 岩田報告では、ユーゴスラヴィアの自主管理社会主義を、協議経済化の過剰と合理的官僚制建設志向の欠如という点から反省し、体制崩壊後の旧ユーゴ諸国における自主管理社会主義への評価と、崩壊と内戦の欧米的要因も指摘された。報告の隋所に、岩田氏の長年にわたる現地体験や、ユーゴ・コミュニストとの対話も紹介された。
 それぞれ、質疑応答も活発だった。また、社会主義における国家・企業・労働者という点で、両報告は繋がりがよく、全体として踏み込んだ議論ができた。(この項は佐藤和之)
3 ソ連崩壊後のアメリカとキューバ
 報告は、瀬戸岡紘氏(駒澤大学教授)が「アメリカ建国の理念にみる市民の共同体」を、鶴田満彦(中央大学名誉教授)が「キューバのめざす社会主義」を。司会は長島誠一氏(東京経済大学教授)。参加者15人(責任:独占研究会)。

●懇親会
 シンポジウムの後の懇親会には25人が参加して、歓談した。司会は田上孝一氏。岡本磐男氏(東洋大学名誉教授/学会共同代表)の乾杯で、塩川氏を初め自主企画の報告者、司会に加えて、独占研の柴垣和夫氏などが発言した。柴垣氏は「労働力の商品化の止揚を追求することが依然として課題だ」と述べた。
 4年前に「ロシア革命90周年シンポジウム」が社会主義理論学会などによる実行委員会主催で開かれたがその参加者は80人、今回は、独占研究会や基礎経済科学研究会などの会員にも拡がったので参加者が少し増えた。
 アンケートに「すばらしい企画でした。設営諸氏に感謝します。社会主義理論学会がまだ存続していることに敬意を表します」、「有益なシンポジウムだった。出席して良かった」とあったことを締めくくりとしたい。