日本針路研究所

討論会 現状と打開策──農業・税制・自衛隊

2012年1月29日(日) 午後1時30分〜   文京区民センター
報告
 鈴木宣弘さん 東京大学教授
 白川真澄さん 『ピープルズ・プラン』編集長
 村岡 到さん 『プランB』編集長
司会:西川伸一 明治大学教授  主催:NPO日本針路研究所

 NPO日本針路研究所は、「私たちは、日本の現状をしっかりと認識し、問われている課題について、原則的立場を主張するだけではなく、どうしたらよいのかを示す代案=〈プランB〉を探ることに、重点をおいて活動し、行政や政党の立案に活用される代案を提示したい」とアピールして2010年11月に発足し、『プランB』を定期刊行してきました。公開討論の場でこの課題を探るべく、新春の企画を立案しました。その最初のテーマは、農業、税制、自衛隊という不可欠で重要な課題です。
 農業については、農業問題の第一人者鈴木宣弘さんから提起していただきます。税制や自衛隊については、市民運動のなかでは「増税反対」「自衛隊反対」というレベルではで取りあげられてはいますが、どういう税制が必要なのか、自衛隊はどうしたらよいのかを「左派」は真正面から取りあげることはほとんどありません。この弱点を代表的な新左翼の理論家に埋めていただきます。
 3・11後、特にこれまでの日本社会のあり方、個人のあり方、生活のなかでの価値観が根本から問われるようになりました。日本の社会をどのように変革したらよいのか、そのためには変革の全体像を明らかにしなくてはなりません。社会の主要な内実について、政策的な代案(プランB)が必要です。


ただ「反対」だけでは一歩も前に進めない!
 政策的提起こそが求められている。


鈴木宣弘さん
TPP反対の論拠──日本農業の活路

 工業品も食料品も関税は低く、食料の海外依存度が60%にも達するほどに世界で最も「開国」された日本でさらに「開国」を徹底するTPPは国家存立の「最後の砦」を明け渡すものだ。TPPと「強い農林水産業」は両立しない。食品安全基準の緩和、公的医療保険の崩壊、外国人雇用の増大など国民生活の根幹に関わる問題を国民に説明せずに、「農林水産業の体質強化策を準備すればTPPに参加できる」かの問題の矮小化は許されない。ゼロか100かの極論でなく、現実的で適切な選択肢──米国との関係に配慮しつつ、アジアとEUとの互恵的な経済連携強化を図る長期的な国家戦略が必要だ。
参考文献 鈴木宣弘 『震災復興とTPPを語る──再生のための対案』共著、筑波書房、2011年。

白川真澄さん
税制をどうする─「増税反対」だけでよいのか

 「社会保障と税の一体改革」が大きな政治的テーマとなっている。これをめぐって、「増税反対!」を叫ぶだけでよいのだろうか。高齢化の進展や貧困の急増に対して社会保障の思い切った拡充が求められているが、その安定した財源の確保のためには増税が避けられない。増税ではなく財政のムダを削減すべきという発想は、そもそも新自由主義の十八番なのだ。争われるべきは、どのような「増税」でなければならないかである。消費税率引き上げだけに頼るのか、それともまず金持ちやグローバル企業への課税を強めるのか。私たちの側から、公正な「増税」の中身を打ち出す必要がある。
参考文献:「増税は悪か」(「グローカル」)、『格差社会から公正と連帯へ』工人社、2005年。

村岡 到さん
違憲合法論に踏まえた自衛隊改組の道

 27万人の隊員、年間予算約5兆円の自衛隊。防衛庁は防衛省に格上げされ、海外派兵も相次ぐ。3・11の東日本原発震災では10万人もが災害救助で活動した。単に「自衛隊反対」「海外派兵反対」と主張するだけでよいのか。
 1980年代に法学者小林直樹氏が提唱した「自衛隊=違憲合法」論を活かし、非武装国家をめざして、国連指揮下の平和隊、災害救助隊への改組を提起したい。従来の「社会主義」論ではなぜ「非武装国家」を明確に位置づけ主張することができなかったのか。「非武装国家」は社会主義の新しい方向づけを意味していたのではないか。
 参考文献:村岡到「自衛隊の改組に向けた提案」『プランB』第35号、ロゴス、2011年。

報告

一月二九日、東京・文京区民センターでNPO日本針路研究所主催の「討論会 現状と打開策──農業・税制・自衛隊」が開かれた。司会は西川伸一氏(明治大学教授、針路研監事)。参加者四三人。
 報告は、白川真澄氏(『ピープルズ・プラン』編集長)が「税制をどうする──『増税反対』だけでよいのか」、村岡到が「違憲合法論に踏まえた自衛隊改組の道」、鈴木宣弘氏(東京大学教授)が「TPP反対の論拠──日本農業の活路」の三つ。
 白川氏は、最初に野田佳彦政権が現在すすめている「税と社会保障の一体改革」の内実について、消費税増税にのみ偏っていることを指摘し、近年の財政赤字の深刻さを詳しく説明し、増えるほかない社会保障給付費をどうやって確保するのかを真剣に考える必要があると提起した。公正な増税の基準は何か、大企業や大富豪への課税強化、所得税の累進制の強化、相続税のアップ、食品などを外した消費税のアップ、などを具体的に提案した。ベーシックインカムにも言及した。
 村岡は、小林直樹氏の「違憲合法」論を継承することが必要だとして、さらに「国連の日本平和隊への改組」を提起した(本誌第三五号参照)。
 鈴木氏は、何よりもTPP参加が必要な情報を隠して強行されていることの危険性を強調した。外務省は基礎的文献すら翻訳していない。与野党の議員の半数以上が反対し、反対または慎重の決議を上げた議会が四四に及び、全国の知事のうちわずか六人しか参加に賛成しておらず、TPPがどういうものなのかほとんどの国民は知っていない。「農業自由化」にだけ焦点が当てられているが、医療制度などにも及ぶもので、その影響は極めて大きい。
 討論では、税制について単なる「増税反対」の抽象的なスローガン的な対応ではなく、日本の財政がどうなっているのかに踏まえたうえで、どういう税制が必要なのかという建設的立場からの提起を積極的に評価する声が多かった。自衛隊問題については、日米安保条約の廃棄とセットにして考えるべきだ、などの意見が出された。農業については、情報開示を欠いたTPP推進の危険性がよく分かった、日本農業の活路を東アジア共同体の展望のなかで考えるという提起に学んだ、と共鳴が広がった。
 引き続き開かれた新年懇親会には一九人が出席。全員の自己紹介のあと歓談した。
 討論会はネット配信され、あとでIWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)の記者に聞いたら五〇〇〇人が視聴したという。   (村岡到)