日本針路研究所

2013.1.26 講演会 今、ウィリアム・モリスを考える

2013年3月26日(日) 午後1時〜 文京区民センター
講師 大内秀明さん 東北大学名誉教授

 プランB40号掲載:いま、なぜモリスか──3.11、文明の大転換
 経済学者 大内秀明さんの『ウィリアム・モリスのマルクス主義』(平凡社新書)が話題となっています。モリスはマルクスと同時代人で、日本では「近代デザインの父」として広く知られていますが、実は社会主義者でもあったのです。モリスは芸術を中心軸として「社会主義」を構想しました。エンゲルスはモリスを「センチメンタルなユートピア主義」と冷たく切り捨てましたが、「国家社会主義」に対しても批判を加えていた、モリスの「社会主義論」は、ソ連邦崩壊後の今日においてこそ輝いています。
 閉塞を深め、政治の混迷がつづく今こそ、〈ユートピア〉に思いを馳せることが大切なヒントになると思われます。大内さんは、「唯物史観のドグマ」を鋭く批判して、モリスに学んで新しい未来像を提示しています。一緒に考え、討論しよう。

講師 大内秀明氏

1932年生まれ。東北大学名誉教授 賢治とモリスの館館長
主著
『価値論の形成』東京大学出版会
『恐慌論の形成』日本評論社
最新刊
『ウィリアム・モリスのマルクス主義』平凡社新書

報告

一月二六日、東京・文京区民センターで、NPO法人日本針路研究所主催の講演会「今、ウィリアム・モリスを考える」が開かれ、三七人が参加した。講演は、昨年新著『ウィリアム・モリスのマルクス主義』を刊行した大内秀明東北大学名誉教授。司会は村岡到。
 初めに針路研副理事長の岡本磐男氏が開会の挨拶。岡本氏も大内氏も宇野弘蔵の最初期の直弟子である。大内氏は今年八〇歳)。
 大内氏は、モリスに着目するようになった自身の経過を説明し(本誌前号大内論文参照)、宇野経済学との関連にも触れた。
 講演の前半では、自身が仙台に住んでいることもあって、昨年三月の東日本原発震災の甚大な被害をクローズアップして、原発事故の意味について、〈近代文明の転換〉という基本的視点から鋭く、かつ生活の実態に即して問題提起した。大量生産─大量販売─大量消費が無批判的に良しとされてきたが、この考え方こそ反省を迫られている。つまり、生き方を問い直すこと=ライフスタイルの転換が必要である。原発に頼ること、原発を再稼働させることなどとんでもない誤りである。自然・再生可能エネルギーへの転換こそが緊急に求められている。しかもその潜在的可能性はきわめて大きい。東北地方の地理的特徴からしてもそうである。
 モリスの社会主義は、「芸術社会主義」とでも言えるもので、生活や労働の芸術化を構想した。「役にたたないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない」とか、「芸術は、労働における人間の喜びの表現である。」というモリスの言葉はきわめて重要である。モリスは、自然・地域・家族との共生の「絆」を重視した。
 この点で、宮沢賢治と通じることになる。賢治も労働の芸術化を主張した。そこに着目して、「賢治とモリスの館」を仙台に建てたが、モリスの芸術に惹かれる女性の参観が多い。
 後半では、テーマを日本の社会主義運動に移した。戦前の社会主義運動を振り返り、コミンテルンと「土着日本型労農派社会主義」との対立として、堺利彦や山川均の積極面を強調した。コミンテルンの強い影響下でソ連型(講座派)が正統とされてしまったが、実は労農派のほうが日本に土着する傾向が強かった。一例をあげれば、共産党は「世界党の各国支部」という位置づけを良しとしたが、労農派は各国の党の自立と連携を主張した。戦後は「米ソ対立」の構図のなかで、ソ連の影響がさらに強まり、社会党は頑張りきれず、宇野さんも引きずられてしまったと言える。協会派を指導した向坂逸郎の責任は重いのではないか。戦後は、冷戦構造の下で、ソ連型国家社会主義が「社会主義」と評価されてしまい、コミンテルンの「全般的危機論」が正しいとされてしまった。
 結論的には、国家「社会主義」や国家「資本主義」が崩壊し、人類の未来は、「分権・自主・友愛による社会」への道にこそある。──と大内氏は力つよく明らかにした。
 大内氏の講演が長くなり、コメントの時間が取れなかったが、村岡がモリスを戦前に高く評価した森戸辰男への注意喚起、友愛の意義について、マルクスのなかにソ連型マルクス主義に逸脱する限界があったのではないかについて一言だけ話した。「国家権力奪取」を最重要視したのは、『共産党宣言』のマルクスだった。そこに「国家社会主義」への萌芽があったのではないか。何よりもモリスの〈芸術社会主義〉に気づくこともなく無視していた、従来のマルクス主義や社会主義論に大きな欠陥と限界があったことを直視しなければならない。
 質疑応答では、1、「国家社会主義」用語について。ナチスを形容していたこととの関連をどうするか、2、労働の意味、3、市場をどう評価するか、4、戦前の労農派の評価、などについて意見を交わした。
 講演後半の日本共産党誕生の頃の経過、労農派や堺利彦の評価については、さらに詳しく後日改めてあきらかにしてほしいと強く要望された。
 アンケートの回答も参加者の三分の二近くで、いつもの集会よりも多く、テーマへの関心の高さと熱心さが読み取れた。「賢治とモリスの館」を訪問したいとか、モリスの本を読んでみたいという声もいくつかあった。
 会場では、大内さんの本などが販売された。すでに購入している人が多かったのに、会場でも八冊全部が完売した。